第八回 JIT 
【発表者】 尾野・上坂・山崎

◇要旨◇
近年、日本および外国企業において「いいものを安く作る」日本的生産システムは欠かせないものとなっている。その中心をなすのが「必要なときに」「必要なものを」「必要なだけ」作るJIT生産方式だ。そこで今回はJIT生産方式の概要、その成立過程と波及後の影響、そして様々な生産方式に見られるJITについて取り上げ、考察した。

 ―JITの概要―
JITは生産の仕組みというより、「必要なときに、必要なものを、必要なだけ」という思想そのものなのである。言い換えれば、無駄をなくすというトヨタの経営哲学とも言える。さらに、トヨタは、このJITの思想を取り入れることで、従業員の自立性をも引き出し、常に問題を発見し、改善し、さらによりよいものへとする企業体質を確立しているのである。

 ―JIT成立の背景・波及・限界とボルボ生産方式―
第一次石油危機が起こり、高度経済成長が終焉を迎えると企業は減量経営を強いられることとなった。そこで注目を集めたのがJITを含むトヨタ生産方式である。その後JITは日本に留まらず海外にも波及するが、いかなる影響を及ぼしたのか。ヒトを中心に据えたボルボ生産方式を踏まえてこれからの労働について考える。

 ―様々な生産方式にみるJIT―
数十年前までは製造業では大量生産方式が主流であったが、人や資源活用の効率性の観点から様々な生産システムが生まれてきている。その生産システムにJITはどのように組み込まれているのか、特に混流生産とセル生産方式を取り上げてそこに根付くJITをケースと共に考察した。


  発表資料 ―― 発表スライド : JIT生産方式概要 JIT成立の背景・波及・限界とボルボ生産方式 様々な生産方式とJIT
  補足資料 ―― JITの定義(予習) JITを採用している企業―沖電気・オムロン

◇ディスカッション◇
「日本の企業が中国に工場を建設する際、JITを導入するにあたって、どのような問題点があるか。また、樽俎問題に対してどのような対策が挙げられるか。」

  復習資料 ―― まとめ(発表&ディスカッション)


◇教授より◇
JITをボルボ生産システムとの対比で検討した点がおもしろかったです。説明されたような方式で、ボルボは二つの工場で労働の人間化を試みたのですが、他社との合弁をめぐり経営が動揺したあおりをうけ、この先進的工場は1991年に閉鎖されました。したがってボルボ生産システムは、現存するシステムではなく、ひとつの実験的・理念的システムとみた方がいいと思います。残念ながら、効率性と労働の人間性とは両立しがたいのです。資本主義の成立以降、効率性の徹底追及をめざす生産システムは、労働の人間性の観点から繰り返し批判されてきました。マルクスの『経済学・哲学草稿』(岩波文庫)の労働疎外論はその代表的著作です。学者からの批判だけでなく、労働者の高離職率や労働意欲喪失なども一種の批判です。そして、このような批判に対応して、より人間的な生産システムへの改良を行うことが、生産システムおよび企業の発展の鍵であり、大きくいうと資本主義の生命力です。トヨタのJITも、批判を取り込んで改良され、このことがJITとトヨタの今日の隆盛につながっています。トヨタ九州宮田工場などは、世界で現存する工場のなかでは、もっとも「人にやさしい」工場だと評価されているようです。



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